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特定非営利活動法人W・I・N・G―路をはこぶ

東京都

重症心身障害者と呼ばれる方々の「能動性」=「他者に働きかける力」を多くの人に伝えたい!

団体名・プロジェクト名

特定非営利活動法人W・I・N・G―路をはこぶ

特定非営利活動法人W・I・N・G―路をはこぶの写真

活動エリア 大阪市内
ジャンル 医療・福祉 

主な受賞歴や実績

第1回NPOアクセシビリティ支援プログラム賞受賞(2006年)
その他、助成実績や新聞等のマスコミ掲載実績については法人ホームページ(http://www.yourwing.org/)をご参照下さい。

この活動について教えて下さい

重度の身体障害と知的障害とを重複して抱えられている方、一部の難病(特定疾患等)にり患されている方などを総称して「重症心身障害者」と呼ぶことがあります。その方々の地域生活を支え、共に創っていくことが私たちの活動です。具体的には、主に3つの分野から構成されています。

①直接的な支援=障害福祉サービスの提供(居宅介護・重度訪問介護・移動支援等)。
②文化・芸術=通所施設に併設したギャラリー「galerie“見る倉庫”」を拠点とした現代アート作家と重症心身障害者との交流や共同制作活動コーディネート等。
③連帯・交流=フリースペース「Tamariba」を活用した地域交流イベント主催(フリーマーケット・子ども向けワークショップ・コンサート・映画上映会、講座等)、外国人スタッフの受け入れを通じた国際交流、社会福祉国際研修プログラム事業の推進、東日本大震災における被災地の重症心身障害者支援等。

どうしてこの活動をはじめたんですか?

重症心身障害者と呼ばれる方々は、日常生活のあらゆる場面において介助が必要(医療的ケアも含む)であり、言葉での意思疎通が困難な方がほとんどです。そうした障害の「重さ」故に、私たちの活動が始まった20数年前当時は、養護学校(現・特別支援学校)を卒業した後の生活や人生における選択肢が非常に限られている状況でした(今もさほど変わっていないかもしれませんが…)。母親をはじめとする家族に全てのケアを担ってもらいながら自宅に閉じこもったような生活を送るか、入所施設や病院で一生を過ごすか…。
地域の訪問相談員として、そうした当時の状況を目の当たりにした代表理事は、「我が子の存在を“負担”に感じてしまう母親の不幸」と「自身の存在を母親に“負担”と感じさせてしまっている子の不幸」とをそこに感じ取りました。これを解決するために、子=重症心身障害者が、障害の重さにかかわりなく、普通の生活を送ることができるようなサポートの在り方についての模索が始まりました。会社員が自宅から職場へ通勤し、仕事を終えれば自宅へ帰る――これも「普通の生活」の一例だと思います。そこで、「重症心身障害者であっても自宅から“通う”ことのできる場づくり」というところから私たちの活動はスタートしました。
「普通の生活を送る」ことが「誰のものでもない自分自身の人生を生きる」ための道に繋がっています。子=重症心身障害者が「自分自身の人生を生きる」ことができるようになった時、母と子が互いに抱えていた不幸も、幸せな親子の絆へと転換できる――長く険しい道のりであっても、ここにこそ立ち返るべき私たちの原点があります。

この活動の遣り甲斐や喜びはどんなときに感じますか

私が普段接している利用者さんたち(重症心身障害者の方々)が、「言葉」の代わりに、声や表情、全身の緊張具合、時には体温なども含めたあらゆる「身体表現」でもって私とのコミュニケーションに応じてくれた時、そこに彼等の「能動性」を実感する瞬間があります――「この人たちだって、ちゃんと目の前にいる他者に対して何かしらの“働きかけ”ができる」のだと。この実感は紛れもない「喜び」です。
というのも、利用者さんたちは、365日、24時間、常に誰かの介助やケアを受けながら生活をしています。言葉による意思疎通が可能な方はほとんどいらっしゃいません。そのため、一般的には、何かを「してもらう側」の立場に半ば強制的に立たされ続けていると言えるでしょう。これは言い換えれば「能動性の否定」です――「自ら何かアクションを起こせる人ではない」のだと決めつけられている節があるのです。
しかし、そうした認識は必ずしも実態を反映しているとは言えません。私たちスタッフにとって、利用者さんに対する直接的な介護や医療的ケアは、言葉に代わる「コミュニケーションツール」でもあります。こちらの声かけや働きかけに対する反応は、実際に「身体に触れて」みることできちんと感じることができるのです――日々そうした非言語のチャンネルを駆使しているおかげで、私たちスタッフは人間同士のコミュニケーションに必要な多様なアンテナを自らの中に育て、感受性を高めることができているのかもしれません。これもまた、利用者さんたちから私たちスタッフへの立派な「働きかけ」=「能動性」の賜物です。
私の場合、活動を続ける内に、こうした実感を「スタッフだけが味わうのはもったいない!」と思うようになりました。その気持ちが、地域や社会に対する情報発信、理解・共感を広げていく様々なアプローチへの動機づけとなっています。一人一人の利用者さんにとことん寄り添っていく「個別化」と、そこから感じ取ったもの=「障害の重さに関わらず発揮される能動性」を社会の新たなスタンダードとして打ち立てていく「普遍化」――その両立を求められるところに、この活動に携わる醍醐味があるのではないかと思います。

今後の夢と目標を教えてください

「ケア=コミュニケーション」によって築いた利用者さんたちとの関係性を土台として、文化、芸術、経済…等々、様々な分野・場面を活用し、重症心身障害者と呼ばれる方々の持つ「能動性」=「他者に働きかける力」を一人でも多くの人に感じていただきたいです。
そうすることで、重症心身障害者の方々に対する「存在自体がcost」という感覚や認識を逆転させることができるのではないかと思います。ご家族にとっては「介護」という負担の感覚が、社会にとっては「社会保障費」という負担の認識がそれぞれ根強いものとなっています。しかし、障害当事者の「他者に働きかける力」が家庭や地域社会の中で何らかの「役割」や「機能」を果たしているという実感が浸透した時、彼等の存在はもはや「cost」ではなく立派な「resource」=「人的資源」へと変貌を遂げているのです。「介護」は重要な「コミュニケーションツール」となり、「社会保障費」は障害者という人的資源への「社会投資」となります。
障害者福祉、高齢者福祉、児童福祉といった「○○福祉」は、「○○のための支援」で完結するのではなく、「○○が担う社会全体の成長・成熟」という段階に至って初めて完成形と呼べるのではないでしょうか?障害者だろうが、認知症のおじいちゃん・おばあちゃんだろうが、虐待を受けてしまった児童だろうが、彼等が「社会的弱者」としてではなく、社会を今よりもベターにしていく「人材」として認識される世の中を創り出すこと――それがこの仕事を通じた私の野望?です。

この活動に参加してみたいと思う人にひと言

まず、何はともあれ、直接利用者さんに会いに来ていただきたいです。あるいは街中やご近所、地下鉄や新幹線の車内で、重症心身障害者と思しき人に居合わせる機会に巡り会っていただきたいです。直に会ってこそ、その魅力を実感できる方々ばかりです。
スタッフやボランティアとして私たちと活動を共にしていただける方を増やすことと、重症心身障害者の存在を知っている方が社会のあらゆる方面・分野にまんべんなく散らばっている状況を創り出すこととは、同じレベルで重要なことだと思います。皆さんそれぞれの「関わり方」を、彼等との出会いを通じて直感していただければ幸いです。

取材者のコメント
古川勇樹 介護や医療的ケアが言葉に代わる「コミュニケーションツール」であるという捉え方をすることで、障害の重さに関わらず発揮される能動性を感じることができるという考えにまずは驚かされた。私たちは「障がいのある方も社会の一員です」と謳いながらも、障がいのある方を「弱者」として支える対象として見てしまいがちである。「人材」として社会に貢献しているのだという実感することで、真の意味で同じ社会の一員であると感じることができるようになるのではないだろうか。
団体・プロジェクトの概要
代表者 菅野 眞弓
住所 大阪市西成区岸里東1-5-25
TEL/FAX 06-6656-1280
お問い合せ info@yourwing.org
URL http://www.yourwing.org/